私は社外にメールを送ることは少ないので、ネイティブの個人レッスンの内容は社内メールで使える表現や日記の添削が主です。 今回は、個人レッスンで実際に添削された例文を見ながら、社内向けの英語メールで重要な点を確認します。
「失礼のない」ビジネスメールを書くに当たり、以下の2点について、いつもネイティブの先生から繰り返し言われます。
- ガチガチのフォーマルなメールを除き、ビジネスメールでは短縮形を使う
- 人を主語にするなどの露骨な表現を避ける
1点目は意外に思うかもしれません。 初めて聞いたとき、私は「短縮形ってフォーマルじゃないからビジネスメールでは使えないんじゃないの?」と思いました。 しかし実は、ビジネスメールでも短縮形(I am → I'm など)が使われるようになってきています。 (ただし完全に明確な決まりがあるわけではなく「スタイル」の問題です。) 2点目はフォーマルかインフォーマルかに限らず、一般的に気をつけるべきルールです。
この2つの注意点を同時に確認できる例文があるので、 (添削された私の英文です…) 以下でそれを見ていきましょう。
ネイティブとの個人レッスンについては前回のエントリーで書きました。
目次
添削された文
背景:
- 私は、あるファイルをアップロードしている担当者に連絡を取りたかった。
- Johne (仮名) に聞いたところ「よく知らないけどDavid (仮名) がアップロードしてるんじゃないの?」とのこと。
そこでDavidに以下のメールを送りました。 この例文は個人レッスンを受け始めた頃のものです。今見るととても恥ずかしい。。
I heard from Johne that you are responsible for uploading the file, but if you are not, please forward to the right person.
ジョンから、あなたがファイルをアップロードしていると聞きましたが、もしご担当されていなければ適切な人に転送してください。
- be responsible for ~ : ~の責任を負う、~を担当する
- right person: 適任者、担当者
下線を引いた箇所が添削されました。 たったこれだけの添削から、ビジネス英語メールで重要なことを2つ学ぶことができます。
あなたが担当者でなければ
この表現は2段階で添削されました。
- 添削前(悪い表現) :if you are not
- 添削1(ましな表現):if you aren't
- 添削2(良い表現) :if it's not you
違いを見ていきましょう。
添削1:ビジネスメールでは短縮形を使う
まずは、"if you are not" から "if you aren't" に修正されました。
これまでの私の認識
以前は以下のような使い分けをしていました。
私のような非ネイティブにとっては、どこまで砕けた表現がメールで許されるかわかりません。 よって無難に短縮形を使わずに "if you are not"と書いてしまいました。 (正直、「短縮するかどうかについて」あまり深く考えたことはありませんでした。)
ネイティブによる説明
先生はいつも口を酸っぱくして「ビジネスメールでは短縮形った方が良い」と言います。
(社内メールではOK、社外メールでも数回やり取りした後はOK)
(公文書、学術論文、初対面の人へのメール)
会話における短縮形の重要性
まずはビジネスメールにおける用法の前に、 会話における短縮形の重要性を強調されました。
ネイティブたちは、よほどの理由が無い限り会話では短縮形を使います。 カジュアルというよりは良い意味でフレンドリーなのだそうです。 短縮しないと堅い文語になってしまうので、冷たい響きになるそうです。
さらに、英語では、上司が部下にきつい口調で命令したり、怒ったりしているときに、一語一語ゆっくりはっきりと発音することがあります。 (海外ドラマなどで、怒った人が相手を指差しながら、一語一語はっきりと発音しているアレです。)
以下の例文を比べてみてください。
- Don't send the email yet.
- Do not send the email yet.
どちらも「そのメールはまだ送らないで!」と言う意味です。 声のトーンにもよるのですが、1つ目はマイルドに「送るな」と言っているだけですが、 2つ目は苛立った上司が部下に指示しているような響きです。
したがって会話においては、フレンドリーな響きを出したり、表現をマイルドにするために短縮形が使われます。
ビジネスメールにおける短縮形の使用
実は、ビジネスメールについても同じことが言えます。 フレンドリーな響きを出したり表現をマイルドにするために短縮形を使うことができます。
有名なイギリス英語のスタイルガイド "Oxford Guide to Style" には以下のような記載がありました。
Common verbal contractions, such as I'm, can't, it's, mustn't, he'll, are perfectly acceptable in less formal writing, and are frequently found (and may be kept) even in academic works.
Oxford Guide to Style | Oxford University Press
つまり、格調高い文章でなければ短縮形の使用は可能。最近は学術論文等でも使われているようです。 (「学術的な場面でも」とありますが、使用を禁止しているスタイルガイドもあります。)
また、以下のサイトでもスタイルガイドを引用して、ビジネスメールでの短縮形の使用について議論しています。
Are Contractions Okay in Business Writing?
トーンを和らげることに関しては以下の説明がありました。
The not contractions (e.g., won’t, can’t, don’t, and aren’t) can relax the tone of sentences that may otherwise sound bossy or unfriendly; this is particularly true for negative or imperative sentences:
Five Tips for Using Contractions in Business Writing
特に、ネガティブな文において短縮形を使うのは効果的だと書いてあります。
"if you are not" → "if you aren't"
添削された文に話を戻しましょう。 ここまで見てきたように、"if you are not"には堅い響きがあります。 さらに、"NOT"を短縮しないことにより、否定的なニュアンスが強調されてしまい、失礼な印象を与えかねません。 そこで、"if you aren't"と短縮することで否定的なニュアンスを和らげ、丁寧な文にしているのです。
他にも以前、 「スプレッドシート(エクセルを含む表計算ファイル)を送ります」というときに
- 添削前:
Here isthe spreadsheet. - 添削後:Here's the spreadsheet.
のように短縮形を使うようにと指摘されました。
("Here's the spreadsheet"と"Please find attached spreadsheet."の違いについて、今度記事を書こうと思います。)
この例文に関しても、短縮形を使わずに書くと、読んだ側は冷たく突き放された印象を受けるのだそうです。
添削2:露骨な主語を避ける
長々と"if you aren't"の説明をしてきましたが、これでもまだ「礼儀正しい」表現ではありません。 "if it's not you" に修正されました。
一般的に、ビジネスメールでは主語が人物になることを避けます。 "if you aren't"と書いてしまうと、文脈によっては"you"を非難しているように受け取られかねません。
たとえば、He hasn’t done the task yet. (彼はまだ仕事を終えていない)という一文なら、 The task hasn’t been done yet. (あの仕事がまだ片付いていない)と表現し換えることで、 特定の人物を非難するニュアンスを取り払い、より丁寧で配慮のある文章にできます。 英語の「カジュアルな表現」と「フォーマルな表現」の違いと使い方のコツ | Weblio英会話コラム(英語での言い方・英語表現)
これは日本語でも同じなので、感覚的に納得できるでしょう。
他にも「そこには車で行ったほうが良いですよ」というときに
- 添削前:I recommend
you should gothere by car. - 添削後:I recommend going there by car.
と添削されました。この例文でも、"you should"と露骨に書くと、威張ったような口調(Bossy)に聞こえるからです。
"It's not you" か "It isn't you" か
ところで、"it's not you" にはもう一つの短縮形があり、"it isn't you" とすることができます。 実は、添削1でも"if you aren't" の代わりに "if you're not" と短縮することもできました。 なぜそれぞれが選ばれたのでしょうか。
一般論:
今回の例文:
どうでしょう…? これらの違いはネイティブ的にもかなり微妙なもので、 ましてや非ネイティブの私には、良し悪しを感覚的に判断することはできません。 ですが、自分が書いた文章を繰り返し添削してもらうことで、少しでも感覚を磨いていけると思っています。
まとめ:「フォーマルさ」と「礼儀正しさ」の違い
ここまで見てきたように、「人を露骨に主語にしない」ことと「短縮形を用いる」ことを意識すれば、 必要以上の「フォーマルさ」を減らし、読み手に配慮した「礼儀正しい」英語メールを書くことができます。
ここで、「フォーマルである」ことと「礼儀正しい」ことの違いを認識することが重要です。 ネイティブの先生は以下のように教えてくれました。
- フォーマル (Formal):公文書や学術論文のような堅い表現。
- 礼儀正しい (Polite):相手の非難や自分の要求を露骨に表現することを避け、相手に配慮する表現。
つまり、「フォーマルである」ことと「礼儀正しい」ことは必ずしも一致しないのです。 状況に合わない必要以上にフォーマルなメールは、時には怒っていると捉えられ、「失礼だ」と思われかねないのです。
「フォーマルである」ことと「礼儀正しいこと」は必ずしも一致しない
個人レッスンでは、このように独学だけでは習得が難しい点を指摘されます。 最初は「こんな細かい点を一つずつ拾っていくのは無理…」と思いましたが、気がつけば先生から指摘される回数は減っていきました。 継続することが重要です。